大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)324号 判決

原告

福田ヤチヨ

被告

福田こと村田博

主文

一  被告は原告に対し、金二三五万〇八三五円およびこれに対する昭和五九年一一月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は後記の交通事故で受傷した。

2  交通事故の発生

(1) 日時 昭和五九年一一月二四日午前一〇時四〇分頃

(2) 場所 島根県出雲市稲岡町三四二番先道路上

(3) 被害者 原告

(4) 加害者 被告

(5) 態様 優先道路を北上中の訴外堂原英夫運転の乗用車に交差する西方の道路から進入した被告運転の乗用車が、側面から衝突してきたもので、堂原運転車両に同乗中の原告が受傷した。

(6) 結果 〈1〉 受傷名 頸椎捻挫、腹部打撲、頭部挫創

〈2〉 治療 島根県立中央病院―縫合手術、昭和五九年一一月二四日

伊藤整形外科―昭和五九年一一月二六日から昭和六一年八月九日

原告は、昭和六一年八月九日、局部にがんこな神経症を残し伊藤勲医師からこれ以上の治癒不可能と診断された。原告の後遺症は自賠法施行令別表後遺症等級表一二級一二号に該当する。

3  責任

本件事故は被告の前方不注視により発生したものであり、同人の運転車両は同人の所有するものであるから、被告は、民法七〇九条、自賠法三条により、原告に対して損害賠償責任を負担する。

4  損害

(一) 治療費 六七万二二七〇円

(二) 休業損害

原告はNTTの職員であり、昭和五九年分の給与は五二六万七九八一円であり、三六五日で除すると一日一万四四三三円となる。同人の休業日数は一九日であり、一万四四三三円×一九=二七万四二二七円

(三) 洗髪代

原告は頭部の外傷と縫合手術の予後のため、自ら洗髪ができず、美容院で洗髪を要した。原告が美容室に支払つた洗髪代 八万〇五〇〇円

(四) メガネ代

原告は本件事故のためこれまで使用していたメガネを使用できなくなり、新規に購入した。七万一〇〇〇円

(五) 事故直後の雑費

本件事故のため、原告は、縫合手術後、ホテルで一泊せざるを得ず、かつ、国鉄を利用して西宮に帰らねばならなくなつた。ホテル代と乗車料金 一万二〇〇〇円

(六) 通院交通費

阪神甲子園から伊藤整形外科までの通院交通費四七〇円(タクシー)×二×一一六=一〇万九〇四〇円

(七) 慰謝料 傷害分 九五万円

後遺症分 七五万円

(八) 逸失利益

五七六万四三五五円(昭和六〇年分の給与取得)×〇・一四×四・三六四(五年分のホフマン係数)=三五二万一七九〇円

(九) 弁護士費用 五〇万円

被告は原告に対し損害填補の努力を全くしないので、原告は、弁護士に依頼して損害の填補を求めざるを得なかつた。

5  損益相殺

原告は被告から九七万二二七〇円を受け取つている。

6  よつて、原告は、4の損害金中、とりあえず五〇〇万円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五九年一一月二五日から、支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1を認め、2は(5)、(6)のうち後遺症を除き、認める。2(5)、(6)のうち後遺症については争う。

2  同3は認め、同4のうち(一)を認め、その余の点は不知。なお、原告の後遺症は自賠責共済の手続上は非該当(一四級に満たない)であるとされている。

3  同5は認め被告に有利に援用する。

三  被告の主張(過失相殺)

本件事故は見通しの悪い交差点における出合頭の衝突事故であり、当事者双方に過失が認められる事案である。

四  右主張に対する原告の認否

争う。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実及び2の事実中、(5)の事故態様、(6)のうち後遺症を除くその余の点は、いずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一〇ないし第一五号証を総合すれば、本件事故の態様は、請求原因2の(5)記載のとおりであることが認められる。

後遺症の点については、成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証、同第二号証の一、二、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故により頸部捻挫、腰部打撲、頭部挫傷を受傷し、右受傷中、腰部打撲、頭部挫傷はその後の治療により治ゆしたが、頸部捻挫については、治療の初期の段階では、頸部痛、左側腰部痛、耳鳴り、右手のしびれ、握力低下があり、また、一過性の調節麻痺と思われる視力低下が約二週間続いたこと、そして、担当医伊藤勲が昭和六一年八月九日原告を診断した結果によれば、テスト結果では、知覚鈍麻(一)、握力右一四キログラム、左一二キログラム、腱反射正常であつたが、原告においては、右時点でも、時に頸部痛、両肩こり、頭痛、右上肢の脱力感等の後遺症状が残り、右症状は同日固定したとされていること、なお、原告は、本件事故およびその後も、NTT甲子園報話局に勤務し、サタスという、テレビ画面で料金を読みとる、神経を使う業務に従事していることが認められる。

右認定事実によれば、原告は、本件事故によりいわゆる頸部捻挫型の後遺障害を残し、その症状固定は昭和六一年八月九日であること、右症状固定が比較的長びいたのは、神経を使う職業等環境にも一因すること、原告の右後遺症には、神経根症的他覚所見が存在しないが、頸部捻挫型であるから、それは当然の結果であり、他覚的所見が存在しない故をもつて原告の同型における後遺障害の存在まで否定されるべきではないこと、原告の右後遺障害は、自賠法施行令別表後遺障害一四級一〇号に該当するものというべきである。

二  そこで、本件事故により原告の被つた損害について判断する。

1  治療費 六七万二二七〇円

右の点は、当事者間に争いがない。

2  休業損害 二七万四二二七円

成立に争いのない甲第八号証、第一六号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、前記のとおり本件事故当時NTTに勤務し、昭和五九年度の給与は五二六万七九八一円(一日一万四四三三円)、本件受傷のため一九日間休業を余儀なくされたことが認められ、したがつて、その休業損害は頭書金員となる。

3  洗髪代 五万円

原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし二〇によれば、原告は、本件事故前、自分で洗髪しその費用を要しなかつたが、本件事故による頭部外傷と縫合手術の予後のため、自分で洗髪できず、美容室で洗髪し、その費用として八万〇五〇〇円を要したことが認められるところ、美容師による洗髪は自分でするよりも美しくなつているわけであるから、本件事故と相当因果ある右洗髪代としては五万円をもつて相当と認める。

4  メガネ代 七万一〇〇〇円

原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証によれば、原告は、請求原因4の(四)記載のとおり、本件事故により頭書メガネ代を支出したことが認められる。

5  事故直後の雑費 一万二〇〇〇円

原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、原告は、本件事故により請求原因4の(五)記載のホテル代、乗車料金一万二〇〇〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。

6  通院交通費 三万七一二〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は勤務先のNTT甲子園報話局から伊藤整形外科まで一一六日間、通院していたものであつて、その交通費にバス往復一回料金三二〇円を要することが認められ、それによれば、通院交通費は頭書金員となる。

原告は、自ら支出したタクシー代を根拠として通院交通費が一〇万九〇四〇円であると主張するが、原告の前記受傷、後遺障害の程度に照らし、右タクシー代をもつて、本件事故と相当因果関係のある通院交通費であると認めることはできない。

7  慰謝料 一四七万円

内訳

通院慰謝料 七二万円

後遺症慰謝料 七五万円

8  逸失利益 五三万六四八八円

前記認定のとおり、原告の後遺障害は一四級(労働能力喪失率は五パーセント)であつて、その喪失期間二年(これに対応するホフマン係数一・八六一四)、また、前記甲第一六号証に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告の昭和六〇年分給与所得は五七六万四三五五円であることが認められ、以上の事実に基づき後遺障害による逸失利益を算出すれば、頭書金員となる。

5,764,355×0.05×1.8614=536,488

9  以上1ないし8の合計額は三一二万三一〇五円となる。

三  被告は、本件事故につき原告に過失があつたと主張する。

しかし、前記甲第一〇号証、第一三ないし第一五号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は堂原英夫運転の乗用車に同乗中、本件事故にあつたものであつて、本件事故は、被告および堂原両名の共同過失によるものであり、しかも、原告と堂原とは、身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる関係の存在しないことが認められるから、被告は民法七一九条により原告に対し、その被つた全損害を賠償すべき義務があり、同法七二二条のいわゆる被害者側の過失を認めることができない。よつて、被告の右主張は理由がない。

四  原告は、被告から九七万二二七〇円の損害てん補を受けていることは当事者間に争いがない。

前二の9記載の損害額三一二万三一〇五円から右てん補額を控除すれば、残損害は二一五万〇八三五円となる。

五  弁護士費用については二〇万円をもつて相当と認める。

前項記載の損害金に右弁護士費用を加えれば、損害額は二三五万〇八三五円となる。

六  以上の次第で、原告の本訴請求は、損害賠償金二三五万〇八三五円およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五九年一一月二五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容すべきも、その余の部分は棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 広岡保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例